第10話〜幸せの運び手 しあわせの風見鶏 〜
商会とは不思議なものだ。出身や性別を越えて多種多様な人が集まって行動する。それでいて自由。多くの航海者がどこかしらに在籍してるのがわかる気がする…
僕は後ろ髪を引かれる思いでマルセイユを後にした。
ピサの上級学校に行かなければならないからだ。
入学の日も大分迫ってきているし。
とはいえまだ日数はある。イタリアの玄関口にある大都市、ジェノヴァによってみることにした。
ジェノヴァといえば、先のフローニンゲンで会った「閃光の乙女」がいる都市。もう一度会って話をしてみたい。
とはいえどこにいるか皆目見当もつかないので、酒場に行く事にした。
席につき、酒場娘ベアトリスに「閃光の乙女」について尋ねてみる。
「閃光の乙女ね、マイさんだね。たまにウチに来てくれるわ。確か5番商館にある、”しあわせの風見鶏”って商会にいるわよ。」
「おぉありがとう。助かります。」
「航海者さんもマイさん目当てなのかしら?」と少しニヤニヤしながらベアトリスは尋ねる。
「いや、まさか。ちょっと商会というのを見学に行こうかと。」と慌てて答える。
「手強いわよ?彼女。頑張ってね!」
「いやいや、そんなんじゃありませんから。」
そしてベアトリスに言われた通り、5番商館の前に来たのだが…。
「うーん、なんて言って入ればいいのか…。」と途方にくれていると…
「おや?お客さんかい?まぁ中に入りなよ!」と赤い髪に長身の男性が声を掛けてきた。
「いや…ちょっと…。」
背中を押されつつ、商館に足を踏み入れる。
商館の中は会社というより、ラウンジ。
沢山の本棚にテーブル、なんとバーまであるのか。隠れ家といった雰囲気だった。
「会長ー!お客さんだぜー!」
「うん?」会長と呼ばれた男性は本を閉じ、僕の方へ歩いてきた。
「お客さんかな?まぁとりあえずこちらへお座りに」と席を勧められた。
「あら?キミは…。確かフローニンゲンで」と赤いリボンにドレスの女性が声をあげる。
「マイさん、お知り合い?」
「えぇ、会長。前に話したフローニンゲンで会った航海者です。」
「そうかー依頼人では無いのね。」と少し肩を落としたようにみえた。
「キミ、商会に見学に?」
「はい、近くに寄ったので見学させて頂こうかと。」と僕は答える。やや緊張気味に…
「そうかい!歓迎するよ。今人手足りなくてね。」と会長と呼ばれた男性は答える。
「それなら改めて自己紹介をしよう。」
「僕は会長のイニエスタ。一応学者でね。天体とか考古学、それに船の設計もやっているよ。」
とラクダ織りのバーヌースに身を包んだ男性は挨拶をする。
「イニさんはスゴイんだぜ?ここらでは有名な学者で海戦にも出てるし。”博学”なんて二つ名もあるぐらいだしな。」
「で、俺はロブ。見ての通り軍人だけど、冒険もするのさー。よろしく!」
とオスマントルコのレイスコートに身を包んだ兄貴肌の男性は挨拶する。
「ロブさんは凄腕の軍人でね、”疾風”なんて二つ名もあるよ。」と会長…イニエスタさんは答える。
「私はマイね。一度会ったから説明はいらないと思うけど、本業は商人よ。」
「ええぇ?あの腕で商人…ですか?」と僕は大声をあげてしまった。
「何かしら?」とキッと睨まれてしまった…。怖い…。
「アハハ、マイちゃん。新人さんをいじめちゃダメよ〜」と陽気な声がする。
「あぁ、ハルさん。ちょうどよかった。昼間からお酒は控えめにね。」と会長は言う。
「こちらはうちのバーのマスターのハルさん。いつも相談に乗ってもらってるよ〜」
「ふぅーん?あなた…面白そうねぇ?」と一瞬鋭い眼光で見つめられた…。
どうやらこの女性も只者では無いらしい。
「とりあえず、近くにいた商会員はこれだけかな?また紹介するよ。」
「はい、お願いします。」と会長に会釈する。
「とりあえず学校に通うといい、卒業したら任せたい仕事も出てくると思う。」
「何より君には世界を見て色々学んで来て欲しいね。
自分で考えて、乗り越えて見えてくるものもあるから。船やアドバイスは任せて欲しい。」
「はい、ありがとうございます。」
「最後に一言いうよ。」
「ようこそ、幸せの運び手。しあわせの風見鶏へ!」
こうして僕のしあわせの風見鶏の一員としての日々が幕を開けたのだった。

多少話盛ってますb(`_´)ゞ
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